こちらの新書版では一年ぶりぐらいかな、のデボラ・シモンズの新刊、読了。
キット兄ちゃん、主役になってもいい人すぎて拍手!

去年出た、デボラの復帰作品を読んで、これは今までのデボラとは違う「何か」を模索している感がありありと分かりましたが、これを合わせての2部作と知り納得。
1冊でなく、2冊かけてみてはじめて「ああ、デボラはデボラだった」と思いました。
確かにこれも、ゴシックロマンス色が強く、ひたすら物語全体を覆う得体の知れなさを拭いきれない。
しかし、ここにきて、やっと彼女本来のキャラクターテラーなところが顔を出したところを見ると、本人がここで慣れてきたといったところか。

前作にて、不気味な屋敷オークフィールド館を相続したクリストファーことキット。
学者の親を亡くし、妹シドニーと生活に困っていたところの相続に、そこに引越しするのはいいが、そこがイワク付きの場所だった事が判明。
父親の死に、隣人で幼馴染みのホーソン子爵(バート)の父親の死も絡み、諸悪の根源のドルイドの古文書までもが登場。
挙句に胡散臭いドルイド僧が秘密の儀式の拠点にしていたりして、妹が生け贄にされそうになって最後には火事で屋敷の一部が消失。
妹とバードの恋が実ってハッピーエンドとなったのだけが救いだが、とにかくあれ以降、キットの憂いは尽きない。
自分がもっと妹の疑念に耳を傾けていたら、と。
鬱鬱と、お酒の量も増えて、引越し当初のように地所の再建にも身が入らずにいた。
そんなところに、ある日、一人の女性がやってくる。
その古物収集家のヒーロウは、叔父のレイヴンの代理で、件のイワク付きの古文書を探しにやってきたのだ。
火事で消失した古文書は、もう一冊存在するらしい、という彼女の話に興味を抱き、今のように屋敷で鬱になっているよりは、と一緒に古文書探しに出る事に。
道中、何度も命を狙われる羽目になる二人だが・・・。

いやはや。
ゴシックロマンスらしい設定の数々だが、そこはこのボリューム、そしてこのレーベルにあわせたが故にゆるめ印象。
ヒーロウを手足のように扱うレイヴンにしても、精神的に彼女を縛り付けているにはちと疑問な程に穴だらけの理論だったりするが(笑)。
ゴシックのゴシックたる由縁は、肉体的苦痛よりも精神的苦痛に重きをおいてのあれこれだが、形から入るレイヴン氏に若干ヲタじみた失笑を拭いきれない(爆)。
若い娘に、洗脳が如くあれこれ聞かせ続けている悪人の割に、妙に律儀だったりするのもゆるゆる(^^;
ラストに、自分のルーツが判明したところも全てまでは解明させず、苦いところを残したままにしているし。

しかし、何といっても賞賛すべきはヒーローのキットであろう。
こんなに脇役の時から主役になってもキャラクターがブレなかった人物は近年滅多にお目にかかれなかったぞ(笑)。
脇役の時から、「能あるタカは爪を隠す」とはよく思ったが、主役になってそれを偉観なく発揮しまくり。
「いや、僕は単なる農夫だし」と謙遜しまくるが、まぁ、何でも出来るし、頭の回転は早いし、早いだけでなく素晴らしい知識を持ち、何より人に愛されまくる性格とハッと目をひく男前っぷり!
これでは、超解凍系ヒロインであるヒーロウもイチコロだわ(^^;
胡散臭い彼女の古文書追跡劇にしても、自分の事よりも、これ以上あのバカ本の被害者を増やすまいとして、何よりもヒーロウの身を案じて付き添うんだからDekiすぎ!
でもって、格好いいだけではなく、お茶目なところとかも満載で、特に足蹴り自転車で二人で逃げる場面が(笑)。
ヒーロウがスイスイスイスーーイ!!と逃げる後から、おいおいこんなの乗った事ねーよオレ!!とか言いつつ、乗りこなして「おおっ、やるじゃん兄ちゃん」と読者に思わせておいて、止め方を知らずにズッコケるあたりキターッ(笑)。
もうね、とにかくヒーロウを大事に大事にしていて、一生懸命で、久し振りに清々しいまでの王子様キャラなヒーローでしたのよ!
放蕩もせず、人を蔑ろにせず、地位や名誉よりも家族や周囲の人間を尊び、努力を怠らず謙遜の心を持ち、一途な愛すべきイケメン・・・しかも天然ときては、乙女の夢レベルですのよマジ( ̄▽ ̄)

クライマックスのところのほろ苦さ、後味の悪さすら、キットの大らかで愛すべきキャラ力でプラスマイナスなし、となった気がするぐらい(笑)。
大団円な中にも、謙虚な姿勢は変わらず、自分がこうやって幸せになれたのは自分だけの力でもないし、彼女を守り手助けする事によって己の成長を促して、本来の場所に戻れたんだ、今後も今の幸せを当たり前と思わず警戒を怠らないぞ、と・・・何だか仙人か修行僧か禅問答か、って勢いなのが笑えました(爆)。
いや、そんなところがデボラらしさの片鱗のようなものにも思えて、1冊では色々と分からなかったところが少し見えたように感じました。
このゴシックというジャンルを手探りで書きつつ、己の色を出す難しさは数冊かけないと無理というところか。

そんなこんなで、1冊目よりも2冊目の今回が断然ことのニーズでした(笑)。
デボラの次回作は、長らくお待たせ!!の、ディ・バラ家シリーズ最新作で、あのシニカルな六男レイノルドが主役。
うふふふ。楽しみですわよーっ( ̄▽ ̄)ノ

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