4年の沈黙を経ての復活劇、デボラ・シモンズまさかのハーレクイン復帰作品、読了。
暗中模索の中に、何かを見出せた気がする1冊。

そうなのである。
日本ではお馴染みのデボラ・シモンズだが、『A Lady of Distinction(邦題「舞踏室の微熱」)』が出版されてから実に4年近く、作家活動が沈黙状態となっていた。
公式サイトも沈黙を続け、正直、作家活動そのものをやめたのではないか?!という疑念すら浮かんでいた。
その彼女が2008年に、この作品で再び表舞台に出てきた。
しかも、一度は離れたと思われていたハーレクイン社から、である(文庫初出の『舞踏室の微熱』『ライラックの天使』はバークレー社からのシングルタイトル)。
そこからは年1冊のゆっくりしたペースだが、順調に刊行を重ねている。
で、気になったのである。
あえて ぬるま湯 ハーレクインから外に出て、そしてすぐに沈黙、このたび復活し、またハーレクインに戻ってきた彼女の作品に「何か」が加算されているのか、と。

父親に死なれた身寄りのない兄妹が、遠縁の伯母から古びた屋敷を相続し、そこに移り住んだと同時に奇妙な出来事に遭遇する。
その屋敷で再会した幼馴染の子爵、無人の屋敷の敷地に広がる不気味な迷路、謎が謎を呼び・・・という、かなりゴシックロマンス色の強い作品に仕上がっていた。
どちらかというと、ライトで軽妙な印象のする展開、キャラ造詣を基本にしている今までのデボラ作品とは一線を画している。
デボラ作品の特徴(?)ともいえる、ホットなラブシーンも抑え気味でそのものズバリ場面が書かれていないし・・・えーっと、朝チュン と言うべきか、これは!(笑)
何より、この作品におけるリサーチ量と情報量が顕著な変化の筆頭。
迷路の歴史、ドルイド教の歴史や詳細など、どちらかというとそういうドキュメントな要素が薄いハーレクイン・ヒストリカルでは異色ともいえる。
そう、他社のシングルタイトルでならともかく、ここでやっていいのか、というぐらい。
隔離されたに近い辺境とか、田舎屋敷とかが舞台になる・・・つまりは擬似閉鎖世界で進行するのが多かったかつての作品と比べたら、今回はゴシックを強調する為の故意的閉鎖空間だし、実在の人物(ジェシカ・ベンソン『秘密の賭けは伯爵とともに』でも出てきたジョン・ジャクソン)とかも出てくるもんだからそこらも差異か。
多分、その変わった部分の印象が強いせいもあるし、デボラ作品のキモでもあるヒーローの造詣が弱いのもあるのか、ロマンス色は少し薄く感じたかな。
ヒロイン兄のキャラ造詣は、しっかり今までのデボラ節なんだけど(笑)。
ただ、作品は小ぶりながらしっかりまとまっているし、単純に面白かった。
誰も彼もが怪しく見えて、何より先が読めないってのがナイスでした。

今までのデボラを期待しているなら、それはこの作品には完全には求められないかもしれないが、ハーレクインであれだけ「読める」っていうのは決してマイナスではないと思う。
作者の試行錯誤の末に生まれた、っていう感じが手にとるように分かるからこの1冊ではまだまだ決め付けられないのではないか。

そういう意味でも、この次の作品の翻訳が待遠しいな。
なにせ、彼女を日本ハーレクインのヒストリカルロマンス人気作家の筆頭に叩き上げた、あのディ・バラ家シリーズ最新刊だ。
もうロビンの後は読めないのか、と思っていただけに、6男レイノルドの話がまさか今になって登場するとは!
いやはや、あのまま続きを書かなくても良かったんじゃ・・・とかいう悔しさに暮れるのか、はたまた最後のニコラスも早く書いて!!となるのか、待つとしましょうか。
デボラなら、嘆願投書しなくてもきっと出るでしょう、翻訳(笑)

コメント