エリザベス・ボイルの新刊、単発作品読了~。
ううっ、これはことのさんにとってはお宝作品ものだわ!

エリザベス・ボイルの一連のシリーズを読んでいる人には、ボイルのホットなラブシーンなんかの後ろに見え隠れする、古き良き時代の少女マンガのような・・・何というか、きゅんきゅんする甘ずっぱさを感じていらっしゃるかと思います。
この単発作品、それがもう炸裂していて、それこそ昔、時間を忘れて読み耽った少女マンガを一気読みしたカタルシスのようなものを彷彿させる読後感。

お話は、リージェンシーの頃のロンドン、内気で夢見るヒロインのシャーロットが、大伯母さんから指輪を相続したところから始まる。
伯爵家の長男セバスチャンにずっと片思いしている彼女、ついつい心の中で「彼に愛される女性になりたい」と願いを込めたら、たまたま(?)その指輪が魔法の指輪だったからさぁ大変。
朝、目が覚めると裸の彼の隣で寝ているではありませんか!
よくよく話を聞くと、彼女はそこではロッティーという社交界きってのスキャンダラスな女性になっていて、セバスチャンの愛人というではないか。
元の世界では堅物だったセバスチャンは放蕩者になっているし、シャーロットの母の従妹フィネラは娼婦、という風に、自分だけでなく世界そのものがパラレルになってしまっている。
ロッティーとして、セバスチャンと愛し合うシャーロットだが、それは胸中は複雑な上に、こんがらがった異世界も複雑に絡まって・・・。

これを読んでいて、ふと、ジャック・フィニィ作品を思い出した。
まさにあのフィニィ・ワールドのロマンスアレンジである。
奇を衒うばかりがパラノーマルではない、と昔からの名作品たちが語っているのであるが、ボイルはそれを見事に自分風に料理した。
ここでは、民族の対立や種族の存亡やら、そんな大層な事はない。
勿論、死人も出ないし、超能力なんて出てはこない。
ヴァンパイアもウェアフルフも、そんなものは出てこない。
ただただ、シャーロットがセバスチャンに愛される女性になりたい、という乙女な願いがあるのみ。
ここが、きゅんきゅんの少女マンガ的であるのだよ。
そうだよ。魔法使いというか、指輪の監視者はいるけど、何かをしてくれるわけじゃない。
ただ、指輪が彼女のロマンチックな願いに共鳴しちゃっただけで、あとはシャーロットが全て自分で乗り切らないとイカンのだ。
パラレルワールドの中で、ただ単純に愛する彼と幸せになったわけでもない。
パラレルの世界でありながら、ロンドン社交界に変わりはなく、愛人はどこまでいっても愛人。
結婚も出来ないし、家族に紹介も出来ない。
賭博や放蕩が祟って借金から抜け出せない貴族、身分制度は確固たるものとしてこの世界でも聳える。
何より、完全に別の世界でも、完全に別の人間でもない、どこかが元の世界と繋がっているという絶妙のパラレルワールドでの話の展開が秀逸過ぎる。
大いなるシャーロットの夢を、皆が共用しているというのとはちょっと違う、シンクロニティのあの按配さよ。
何より、真実は曲げられないという不文律。
そこを何と上手く書いているのか、この作者は。

パラレルワールドは、シャーロットの、セバスチャンを愛する気持ちが強い故に終わりを告げる。
涙の決意で、夢の世界を終わらせた彼女が、そして元の世界がどうなったのかは是非とも本編を読んでもらいたい。
一行一行が、まるで溢れる愛でスキップして弾んでいるかのように、一気にラストまで駆け抜けるのだから。
それはやっぱり、冒頭の堅物のセバスチャンや内気なシャーロット、そして異世界での恋に溺れるセバスチャンと奔放なロッティーという布石と積み重ねがあるからこそ出来たエンドロールまでの見事なまでの一気つっ走り。
しかも、ただの指輪の監視者と、持ち主かと思った謎の二人が、ラスト近くのたった一行で「ええーっっ!そうだったのね!!」と、恐ろしく腑に落ちるロマンス読み垂涎ネタといい。
これぞ乙女! 乙女ちっく!! 胸きゅんきゅん!!!
ロマンスって、こうでなくっちゃ!!と、夜中に嬉しくってきゃいきゃい吠えましたがなマジ!!
ああ、勿論、ずーっとMy蔵書に居座ってもらいますよ!
ダッチェスのお隣で!! どっちも選べないぐらい大好き~っっ♪♪

この1冊で、オーロラブックスが目指しているものが明確になったと思った。
正直、創刊号から迷走していたという印象の刊行ラインナップの中で、コミカライズをベースにしているあの出版社が他社と区別し、レーベルの特色として求めるのはこのボイルのような作品だと思った。
昔、読み耽った少女マンガのような甘ずっぱさに、大人のロマンスとペーソスを交えた、コミカライズにしっくりくるこの作品のような。
なのに、ご存知の通り、この本を最後にオーロラブックスは先の見えないお休み期間に突入してしまった。
完全な休刊ではないお休みのようですが、この移ろい易い市場のご時勢、一度読者が醒めて離れるのを傍観、というのは得策ではないかと。
余計なお世話だけどね。

ただ、こんなステキな作品を、エリザベス・ボイル作品を版権持っていたとして、そのまま休刊からお蔵入りさせるとなると、それはロマンス読みから言わせてもらうと大層な罪だと思う次第。
いくら素晴らしい作品をお持ちでも、読者に読んでもらってナンボです。
お早い充電期間打ち切りをお祈りしております > 宙出版さま

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