ジュリア・ロンドンのデビュタント・トリロジー最終巻、読了~。
あの厚みをあっさり読ませてしまったが、かなり設定的には凝った作りの1冊。

主人公は、三人のデビュタントの残り一人、ドレス作りの得意なフェアチャイルド家次女のフィービー。
母親に急死され、貧乏生活をする事になった際に、自分の洋裁の才能を盾に日銭稼ぎに立ち上がった、はっきり言えば三人の独身女性の中で唯一、地に足がついていたキャラでありました(笑)。
いや、実際読んでもらえば分かるけど、この夢見がちな彼女をとっつかまえて、事あるごとに現実を見るように諭す姉エヴァと、従姉グリアだが、どん底貧乏状態の時には一番堅実だったんですがねぇ・・・自分たちの行状(玉の輿狙い大作戦と、遺産目当ての大冒険)を棚にあげて(^^;;

そんな、堅実な特技と相反して、しょっちゅう白昼夢を見るロマンチストな芸術家気質も見え隠れしている彼女が、今まで覆面デザイナーとしてドレスを作成・販売していたのを、その正体をネタに脅迫されて田園地帯のとあるお屋敷に泊り込み、大量のドレスを作る羽目に。
それまでの自分自身なら、別にバレてもいいんだろうが、なまじ高貴な皆さんと姻戚になってしまった上に、色んな事情が重なり、口惜しながら脅迫に負け、フランス人の未亡人で仕立て屋の女性に化けて遠征の旅に。
そのお屋敷で、サマーフィールド子爵ウィリアムと運命の出会いをするのだが・・・という、ロマンス王道な展開に。

が、そうはいかないのが、このジュリア・ロンドン作品のひねり具合というか。
ここでは、ウィル(ウィリアム)の崩壊した家族が非常に物語のウエイトを占め、その描写がかなりヘヴィだ。
彼がが大陸横断旅行の間に伯爵である父親が卒中に倒れて口もきけない状態となり、長子相続財産に手をつけられないので、屋敷にある他のものを切り売りしながら、保護者になる人間のいないままどん底の生活をせざるをえなくなり、精神的に傷を負っていった弟妹たち。
実質的に飢えはしなかったが、その凄まじいまでの子供たちの精神的な壊れ方と、その後の彼らのやり場なき怒りのような非行具合は、何だか現代にもシンクロしそうな描写のようだった。
そんな家族を支えながらも常に後悔に苛まれ、責任と義務に押しつぶされそうなウィルと、無垢なフィービーのやりとりがとても切なくて素敵でした。
お互い芸術を愛するので、何かにつけての比喩が美しく、読んでいて清々しいほど。
世界中の珍しい場所を放浪し、あらゆる美しいものを拝したウィルが、自分だけの心からの宝物であるフィービーを見つけたのが故郷だったという、何か因縁めいたものを淡々と描きながら進んでいくが、何とも不思議な書き方をしている部分が。
そう、崩壊したウィルの家族たちである。
最後の一線を越えず、何やら「真実は薮の中」と言わんばかりの突き放した状態なのである。
特に次男ジョシュアと、ウィルの結婚相手最有力候補だったキャロラインのくだりは、全くもって掘り下げずに単なるウィルの混乱した家族面の1ピースとばかり。
今までのロマンス本だと、ここはサイドロマンスとしてがっつり書かれるかと思ったら、始まったかと思ったら、次にはいきなりオチ!!みたいな(笑)。
あれには驚いたわ(^^ゞ
主人公二人に的を絞ったという言い方も出来るが、いかんせんその放置プレイに近いまでの凄まじさはどうよ(^^;
そんな中、やはり長女のアリスのキャラクターは放置プレイの枠を越えて群を抜いていたな。
彼女とフィービーの波乱万丈で凸凹な友情と、あとフィービーと病床の伯爵とのやりとりはいいスパイスとなっていた。
そこはやっぱり、頑張り屋さんでピュアなフィービーのヒロインとしてのブレなきキャラありき、ってところ。

まぁ、自分の身分を偽っていたフィービーの正体がバレた時のウィルの反応はテンプレだが(笑)、その後のラストにおける謝りっぷりは潔い。
何というか、まっすぐだよな、このウィルって。
フィービーにメロメロすぎて、言葉もなく、ただ呆然としている場面の多い事ったら・・・ワールドワイドな放蕩者というより、ひねくれた皮を被ったピュアな坊ちゃんだわ(笑)。
ピュア同士、結局はラブラブきゅんきゅん~♪というラストも想定内でしたが、妙に博打されるよりは◎かと。

しかし、つまりはこの貧乏三人、結局はすごい玉の輿に、しかも恋愛結婚状態で上り詰めたという景気いい話だったという事よね(笑)。
いや、予想通りなんだけど、こんだけラブラブバカップルなオチばかりなんだし、一人ぐらい貧乏ヒーローと結婚して下さってもお釣りきたかも(^^ゞ

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