ISBN:4562043377 文庫 岡本千晶 原書房 2008/03/10 ¥950

ジュディス・アイボリーの新刊、読了〜♪
彼女の本の中で、日本上陸する前から読みたかったのが初邦訳だった『舞踏会のレッスンへ』とこの本。
いやー。これで念願かなったわ。アイボリーに関しては(笑)。

元々、彼女のお話って古典のモチーフとか影響が色濃くって、それでいて独特。
今回はアイボリー版『美女と野獣』ともいうか何というか。
ただ、しかし、そこはクセ者アイボリー。
幾つものギミックに似た世界構築があって、一筋縄じゃあいかない話となっていて、隅から隅まで気が抜けない。

20世紀初頭、アメリカきっての富豪令嬢ルイーズが、親に決められた結婚相手、フランス貴族シャルルに嫁ぐ為に乗った客船から物語は始まる。
シャルルは、彼女の父親が持つ捕鯨船で捕獲される特別な香料の原料が欲しく、ルイーズはアメリカでは自分の居場所を見つけられずにいる空虚な生活から逃れる為に結婚に合意。
お互い、フランスの地で対面する筈が、シャルルが偶然、ルイーズ親子と一緒の客船に乗り合わせた事からややこしい事に(^^ゞ

そう。シャルルが、自分の正体を隠してもうすぐ自分の嫁になるルイーズを誘惑しようなんて悪戯心を起こしたばかりに(^^ゞ

ツンツンな「美女」ルイーズが、若さと一途さ炸裂に正体を隠したシャルルに気持ちをぶつけてゆく様は、微笑ましいと同時に、若さ故の脆さとか痛みとか、色んなものを読み取れる。
そこがまた何とも切なく、百戦錬磨のシャルルでなくてもよろめいてしまいますな。
そして、百戦錬磨のプレイボーイである「野獣」のシャルルが・・・もう、完全なミイラとりがミイラ(^^;;
もう、元気の有り余っている勢い満々の18歳のお嬢さんの性への探究心に火を付けて見事自爆状態なのが・・・いやん。かわいいぞ(爆)。

客船での暗闇の密会は、船の到着と共に終わりを告げざるを得ないのは分かっているのだが。
ここでシャルルは正体を隠したまま忽然とルイーズの前から消えて、本来の自分、フランス貴族で彼女の婚約者シャルルとして出会う事を選択したんだよね。
ほら。自分はもう素直になったルイーズにすっかりメロメロドッキューンだし、甘やかしてラブラブに愛でる気満々だし(笑)。
・・・若くして老成してしまった、そんなシャルルが失念していた事。
若さゆえに、ルイーズが一途に正体不明の船上での、本来の自分を見出してくれた「暗闇の恋人」への、恐ろしいまでの義理堅い恋心を捨てなかった事。
そう、あまりの滑稽な状態となってしまったその現状。
自分の恋敵が、何ともう一人の自分(笑)。
策士が策を講じ過ぎて、自ら自爆しているのだ(笑)。
・・・ルイーズにお預け喰らわされて、どうにも腹がたっても、殴る相手は・・・じ、自分?!(爆)

もうね、このフランスに到着してからの、シャルルの何とも阿呆な、それでいてどーしようもない自爆っぷりと悶えっぷりと寸止め具合が・・・ことのさんには大喝采もので(笑)。
客船の暗闇の密会場面のホットさよりも、ちょっとした触れ合いに悶え、ほんの少しの視線で狂いそうになる、その濃厚なまでのシャルルの心理描写が本当に秀逸なの。
「いい大人が、さ」と苦笑しつつ、本当に切なく、いい意味で粘質で後から後からジワジワくるんだわ。

本当に彼女に恋してしまったシャルルの、もどかしさとか、場数踏んでる筈が妙に心もとないところとか、ルイーズのちょっとした言動に翻弄される様は完全に途中で立場逆転(^^ゞ
そんな駄目駄目っぷりが・・・なんちゅーのか・・・ツボ?(^^ゞ
ここまでの意気地の無さ・・・あ、違うか。根性座ってないのか(同じじゃん。爆)が、デキる男のくせして本気の恋愛が絡むとヘタレ化一気に加速でステキ(爆)。
とにかく、細かいエピソードや薀蓄や台詞の積み重ねが、シャルルとルイーズの間の距離を物語り、ルイーズにとっての「二度目の恋」として読ませてくれる。
ああ、うまいなぁ、アイボリー。踊らされっぱなしです。読んでて。

ハッピーエンドといえばかなりのど真ん中ハッピーエンド。
でも、読後の何とも混沌とした胸中は、他のロマンス小説とは一線を画する。
何度も読んで、何度も噛み締めて、そして誰かと語りたくなる。
余韻に浸る、というか、探求心が疼かざるをえない1冊。
クセになるという事だ。
超クセ者本大好きのことのさんのお気に入り殿堂入り確定。

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